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京都市長選での紛糾 — 与野党相乗りの背景とその是非について—

 

 令和6年2月4日に行われた京都市長選挙は、事前の注目度もさることながらその構図、選挙結果共にメディア、SNSで論争を巻き起こす波乱の選挙となった。4期16年の間市政を担っていた門川大作市長が今期限りでの退任を表明し、元内閣官房副長官の松井孝治氏(自民、公明、立憲、国民推薦)、弁護士の福山和人氏(共産、社民、れいわ支援)、元京都市議の村山祥栄氏、元京都府議の二之湯真治氏、高家悠氏が立候補する乱戦となった。

ここで注目されたのは国政において激しく対立する与党・自民、公明党と野党・立憲民主党が同じ候補を共に支援した事だ。松井氏には自民党、公明党、そして立憲民主党、国民民主党という4政党の組織票が結集する形となった一方、福山氏は過去の選挙への出馬経験に加え、他地域に比べ大きな影響力を持つ共産党の支援、また福山氏自ら政党色を消す選挙戦により両者は大激戦となる。

そして予断を許さない選挙戦の結果は16,251票差で松井孝治氏の勝利、現市長の事実上の後継となる新たな京都市長が誕生する形となった。

 

   この選挙結果に対してメディア、SNS上で多く見られた批判が「立憲民主党の与党との相乗り」に関するものである。普段国政で激しく対立し裏金問題でも厳しく与党を追求、政権交代を高らかに叫ぶ野党第一党が自民党と地方選挙で手を結び与党系市長の誕生に一役買ったとなれば、野党サイドから批判が出るのは理解できる。また自民党京都府連の会長を務め立憲民主党と共に選挙戦を闘った西田昌司参院議員に411万円の「裏金」が見つかった事、また選挙戦が激戦だった事から、「国政では裏金問題を追求しておいて地方選では裏金議員と手を結ぶダブルスタンダード」「立憲民主党が福山氏に付いていれば野党が勝利していたのに」との恨み節にも似た批判が多く寄せられた。

確かに一見すると立憲民主党は対立するはずの与党と馴れ合い対決を放棄したと思える。しかしこの選挙戦の背景と経緯を冷静に見るとそう単純な話でもない事が分かる。次項ではその複雑な背景について述べる。

 

与野党相乗りの背景と経緯

 

  1. 地域事情

京都市の前市長である門川大作氏は2008年、自民党、公明党、民主党、社民党の支持を受けて共産党支援の候補を破り初当選している。また2008年まで京都市長を務めた桝本頼兼氏は自民、公明、民社、社会党の支援を受け共産党支援の候補を破り初当選した。つまり京都という地では、長い間「共産vs非共産」という構図が定着していたことが分かる。

しかしこれに対し「与野党の馴れ合い」という批判が当たるのか、という事である。例えば大阪では、「維新」の流れを汲む政党の伸長により自民党と共産党の相乗りが多く見られる。 だがこの一例を持って自民党と共産党は「馴れ合っている」と断じる事ができるのだろうか。 地方選の一例のみを見ると与野党が同じ候補を推すことに違和感があるのは当然だが、各地域にはそれぞれ異なった事情があると言える。立憲民主党は各地域ごとの判断に従って、本部が推薦を出す方式を基本的にとっているため、各地域次第で異なる対応を取り得る文化である。

 

  2. 自民党候補への相乗りの「真相」

京都市長選に対して言及する人々、メディアによる批判として多いのが「立憲民主党が自民党推薦の候補に相乗りしてきた」という誤解である。時系列について簡単にまとめてみる。

 

2023年10月24日 

自民、立憲、公明の3党が松井孝治氏に出馬を要請することが判明

www.sankei.com

2023年11月9日

立憲民主党、臨時の常任幹事会で松井孝治氏の推薦を決定

2023年11月15日

自民党、選挙対策本部にて京都市長選における松井孝治氏の推薦を決定

www.kyoto-jimin.jp

こうして時系列を見ると、推薦の順番として立憲民主党→自民党の順に推薦を出したのが分かる。 つまり「立憲が自民候補に相乗り、野党を裏切った」というのは誤りだという事である。

   また立憲民主党の泉健太代表は12月6日の会見で「立憲民主党は元民主党の仲間で『新しい公共』を提唱し市民を大事にする松井さんを推薦した。松井さんとは信頼関係があり、推薦は他のどの政党よりも先である。」との旨を明確に述べている。

 

     3. 政党の支援体制の変化

当初京都市長選は松井孝治氏と福山和人氏に加え、元京都市議の村山祥栄氏が有力な候補として名前が上がっていた。

その理由として昨今関西で大きな影響力を持つ「日本維新の会」の支援を受けていたためである。現在日本維新の会は関西以外では勢力として弱いものの、全国政党化を目指す日本維新の会にとって京都の首長をおさえることは全国進出の大きな足がかりになる。そのため日本維新の会はこの京都市長選に大きな力を入れていた。そして共に全国政党である自民党と立憲民主党の利害が一致したのが「日本維新の会の関西以東進出の阻止」である。

つまり京都市長選は維新進出の防波堤であり、当初の構図は「対維新」だったのである。

 

  しかし選挙が近づく1月中旬、その構図が一変する。村山祥栄氏に「架空パーティー疑惑」が報道され、日本維新の会が推薦を取り消したのだ。裏金問題、パーティー券問題で国政が揺れる中、日本維新の会としては当然の判断をしたと言える。そして同じく国民民主党京都府連として村山祥栄氏を推していた前原誠司衆院議員が国民民主党を離党したことにより党は推薦を撤回、京都党も推薦を撤回し村山氏は候補者レースから脱落する結果となる。そして日本維新の会は投票を自主投票とし、京都市長選における存在感を完全に失った。

digital.asahi.com

 

つまり松井氏陣営にとって「対維新」だったものの維新が脱落したことでその構図は今まで通りの「非共産」VS「共産」へと変化したと言える。

 

与野党相乗りの是非  松井氏推薦は正しかったのか

 

 立憲民主党は結果的に京都市長選において与党と同じ候補を推薦し、それに対して多くの批判が起きた。しかし先に述べた3つの事情を考慮すると、「立憲民主党は国政で自民党を激しく追求する立場でありながら野党陣営を裏切り自民党と手を結んだ第3自民党である」との批判はいささか冷静さに欠けるとも言える。

   一方で立憲民主党が福山和人氏を支援すれば票差の約16000票を縮める、またはひっくり返す事ができた可能性も当然あり、野党支持者の反発も理解できる。

 そして、京都では根強い非共産相乗り反対の民意があり、府議会や市議会の共産党、京都党の強さの源泉でもある。議会でも「共産党だから」という理由で議案を否決して、ほぼ同じ案を与党が提出することが度々ある。京都市長選をめぐり、立憲民主党の片桐市議も離党をした中、立憲民主党もやはり問われることになる。

これらの事情を考慮した上で立憲民主党に対しどんな感情を抱くのか、それぞれの感じ方に委ねたい。